・周りと比べて私だけ、ちょっと太ってきた?
・お母さんにも「痩せたら?」って言われたし。
・インスタのモデルはキラキラしてていいなぁ。。
若い女の子の中には、ちょっとしたキッカケでダイエットを始めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
2014年に大阪府で実施された調査(※下記参照)によると、中学1年生女子の22.5%にダイエット経験があり、中学3年生になる頃には39.9%と倍増しています。
※女子中学生のダイエット行動とメディア利用,やせ理想の内面化,身体不満との関連
しかし、栄養教育の専門家である大阪公立大学の早見先生は「中学生など成長期のダイエットはリスクが高い」と指摘します。 成長期のダイエットにはどんなリスクがあるのか。またリスクを回避するため何ができるのか、早見先生にお話を伺ってきました。
大学院生活科学研究科 生活科学専攻
講師
博士(学術)。大阪市立大学生活科学部食品栄養科学科を卒業後、大阪大学医学系研究科保健学修了、シドニー大学教育学修了。
大阪市立大学生活科学研究科特任助教、助教を経て、2017年より大阪市立大学生活科学研究科講師、2022年より大阪公立大学大学院生活科学研究科講師。
専門分野 :栄養教育、ボディイメージ、行動科学、健康教育、食育、思春期
研究テーマ:若年世代のダイエット行動・ボディイメージに関わる要因探索と予防教育の実践
研究者情報:大阪公立大学 早見直美
早見先生のご経歴
では早速始めさせていただきます。まずは早見先生のご経歴を教えてください。
早見先生大学時代は大阪市立大学の生活科学部食品栄養科学科で、管理栄養士の資格を取りたいということで勉強していました。その後は元々生物が好きだったので、細胞を扱うような研究に傾倒していったんですね。大学院まで行ってたんですけれども、将来のことを考えたときに私、手先が器用でなくて、、、実験があまり上手じゃなかったんです。それって致命的だったんですよ、研究者として。
その時に、管理栄養士っていう資格を生かして「人」を対象にした研究をしたいなって思いまして。当時メタボリックシンドロームがちょうど言われ始めた頃で、それで今の健康・栄養教育、公衆衛生みたいな、人をどうやって変えるかっていうところに興味を持って、ずっとその研究を続けているような感じです。
なるほど、ありがとうございます。最初は細胞だとか細かい実験が必要な研究をやっていたけど・・
早見先生なんかサイエンスっていう感じのことをやってました。
段々興味が広がって、細胞よりも「人」や「実際の社会問題」とか、そっちの方に興味が移ってきて今に至るみたいな、そんな感じなんですね。
ダイエットが必要な人、必要じゃない人の基準
今回は中高生のダイエットに関する取材なのですが、そもそも「ダイエットが必要な人」と「本当は必要じゃない人」を分ける基準みたいなものは早見先生的にあったりしますでしょうか?
早見先生そうですね。思春期、いわゆる成長期にいる子どもたちは成長のチャンスがあるので、基本的にダイエットは必要ないと私は思っています。例えば成長期の男の子だったらすごく背が伸びて体型が変わったり、女の子だったら少しふっくらしてきたりとか、普通にありますよね。その時にダイエットしてしまうのはリスクが高いと思うので。
せっかくの成長のチャンスを逃してしまうリスクがあるわけですね。僕も「中高生の時、もっとしっかり食べてたらあと3センチは背が伸びてたんちゃうんかな・・・」と思ったりすることあります。
早見先生そういうこともあります。あと、内臓機能など、体の内側の成長もまだ完全に出来上がっていないので。ダイエットすることでホルモンバランスが崩れたり、貧血になりやすくなったりというリスクもあるので思春期・成長期はできるだけ「食べないダイエット」は避けて欲しいと思います。
もしダイエットするとしても、極端なダイエットで一気に痩せようっていうのではなくて、食事の良くない部分を健康的な食事に修正していく。それを長期で続けていったら自然に標準の範囲に入っていくっていうのが望ましいなと思っています。
なぜ痩せる必要がない人まで、ダイエットをしてしまうのか?
そもそもなんで痩せる必要がない人までダイエットをしてしまうのか、早見先生の考えを聞かせていただきたいです。
早見先生はい。本当にいろんな要因があるので一概には言えませんが。。若年世代だと、ただでさえ成長期で自分の体が変わっていく中で、他人と比較して「自分だけが先に大きくなった」と感じてしまうことがあります。それが痩せたいっていう気持ちに繋がってしまうようです。成長期であれば身長が伸びて体重が増えるのは当たり前なんですけれど。。
なるほど。成長の過程で自然とダイエットを意識し始めるというのが、最初のキッカケみたいな感じですね。
早見先生そこから、私は社会文化的要因という風に言ってるんですけど、「誰かにからかわれたり」とか、「メディアでインパクトが強い情報に触れる」と、ダイエット行動に走ってしまう。「ダイエットしようかな?」ぐらいの人たちが実際に行動し始めるのは、やっぱりそういうところの影響が大きいかなと。
あと社会的に痩せている方が何か得をするんじゃないかとか。やっぱり可愛く見られたいみたいなところが出てくるので、ある種標準化されたイメージというか、「こういうのがかわいい」「こういうのがモテる」みたいなところに行きたくなるっていうのはありますね。
いや、それは男の僕でもすごく気持ちわかります。それに、今のようなネット社会だとメディアの情報が無料で転がってるんで不適切な情報に触れる機会が増えますよね。
早見先生増えていると思いますし、何て言うんですかね。インターネットだと似たような情報が集まってくるようにできてるじゃないですか。インスタグラムとかでも1回なんかコンテンツを見ると「私がこれ調べたのなんで知ってるの?」みたいなこと起こりますよね。そうやって集まってきた情報の影響で、知らないうちに「痩せたい」とか「可愛くなりたい」とか思うようになってしまっているという。。
確かに。「ちょっと興味あるかな」ぐらいの広告が色んなところで見かけるうちに段々気になってきちゃって「そろそろちょっと1回クリック」みたいな。。結果として、そこまで興味がなかった人まで不適切な情報に触れてしまうというわけですね。
早見先生そうですね。ただ何かそういう情報を見ただけでいきなり不健康なダイエットに走るかって言ったらそうではないんですけれど、「友達に何か言われる」とか「好きな人に何か言われる」とか、自分にとってインパクトが強いことが起こったときに、「あの広告あったな」って思い出して行動に移るっていうことは言われています。
不要なダイエットをしない・させないために
本当は痩せる必要がない人まで、痩せたいと思ってしまうというのは良くないことだと思います。とはいえ、、、どうすればいいんでしょうか?
早見先生やっぱり情報の影響ってすごく大きいので「メディアリテラシーを高める」っていうことは絶対必要だって言われています。メディアの情報をそのまま受け取るんじゃなくて、主体的に「本当にそうなのか?」という視点でちゃんと読み解いていくことが必要です。
あとは「自己肯定感を高める」っていう、特に思春期は自分に自信がない時期でもあるので「自分は駄目だ・・」となりがちではあるんですけれど。その中でも自分の良いところに目を向けるとか。なんていうか、アイドルとかモデルを見て「かわいいな」と思うこと自体は別に駄目じゃないんですけど。なんかそうじゃない自分を否定するっていうことが行き過ぎたダイエットに繋がったりするので。やっぱり自分の良いところをしっかりと受け止めた上で、メディアの情報に触れることが大事かな。
そういう意味で内側から自己肯定感を高めてバリアを張ることが大事なんですね。プラス、メディア情報の信頼性を見極める力(メディアリテラシー)の両方を高めていくことで多少なりともバリアになるんです。
そのバリアめちゃくちゃ大事ですよね。特に今はインターネットも普及して情報がとにかく多くて、その情報自体も真偽不明な情報もいっぱいあるので「メディアリテラシーのバリア」と「自己肯定感のバリア」はちゃんと張っておいた方が良さそうって思います。
メディアリテラシーのバリアを張る
「メディアリテラシーのバリア」ですが、具体的にどうやって張ればいいんでしょうか?
早見先生授業とか研究で中学生を対象にして、メディアの情報を「この情報は正しい、この情報は間違ってる」という風に読み解いたりしてます。やっぱりそれをすると意識して見るようにはなるんですよね。まずは「間違った情報が存在する」ということに気づかせるのが大事というか。特に中学生高校生ぐらいだとそこの気づきがなかったりするので。まず、「そういうものも含まれてるんだ・・?」みたいな。なので、そういう授業だったり教育っていうのは必要かなと思っています。
なるほど。ちなみに早見先生の研究テーマを見ると若い方向けの研究が多いように見えますが。。
早見先生そうですね。思春期とあと20代ぐらいの女性を対象にする研究が今までは多いです。私がいる健康教育の分野では早期予防することが大事っていうのもありまして、割と若い世代に対して研究と教育をやってます。
若い頃に行き過ぎたダイエットをしてしまうと、なかなかそれを変えるのは難しいのでしょうか?
早見先生若い頃にダイエットを経験すると、ダイエットが成功するにしても失敗するにしても、「繰り返しダイエットしてしまう」ってことがわかっています。あと「どんどんエスカレートしていく」っていうこともわかっていて。
若い頃だったら痩せたけど大人になって「あのとき痩せたからもう1回やろう」と思ってやったときには、もう代謝も違うから、同じやり方でやっても痩せなかったりする。そうするともっとハードなことをしてしまうっていう。。それで例えばそのことが摂食障害に繋がったりという報告もあるので。
できれば早いうちに、なるべくダイエット行動を起こす前に止めておきたいなっていうのが私が思うことです。
なるほど。それで思春期ぐらいのタイミングでの教育が一番効果的っていう。
早見先生そうですね。毎年のように調査をしてるんですけれども、中学生対象で「ダイエットを今までにしたことがありますか?」って聞くと、中学1年生とかで大体20%から25%ぐらいはもう既にダイエットしたことがあるっていうふうに回答するんですね。なので、できるだけ早いうちにそういう行動を止めたいっていうのは思います。高校生ぐらいになるとだいぶ経験ありになってしまうので。
もう本当そのタイミングなんですね。中学1年ぐらい。
早見先生そうですね。中学生の本当に自分の体が変わっていく時期に、やっぱり友達との比較からダイエット始めがちで。そうなると高校生になっても「ちょっと太ったからダイエットしないと」みたいに思ってしまって、それが大人になっても続くってのがあるのかなと思います。
中学生に対しての教育は、学校の授業の一環としてやる感じなんですか。
早見先生今は学校の授業の一環で、保健体育の中でダイエットのことも記述されるようになってきています。
学校教育以外でメディアリテラシーを高めるにはどうすればいいのでしょうか?
早見先生そうですね。政府が発信してるような信頼性の高い情報を参考にするのが大事だと思います。ただ、公的なところから出される情報ってインパクトが小さかったり、内容が難しかったりして、案外届くべき人に届かない。ですので「公的な情報をもっとわかりやすくしないといけないな」っていうのと、「それをどういうふうに届けていくか」っていうのは課題ですね。
あと、インターネットへのアクセスは思春期の子ども達も今すごく上手なので、「実際の世界で見る情報」と「学校の中で情報の見方を学ぶ教育」の両方でメディアリテラシーを高めていくのが良いのかなって思っています。
自己肯定感のバリアを育てる
メディアリテラシーに続いて、自己肯定感ですが、身近なところで言うと、本当親とかも大事ですよね。下手に自己肯定感を下げること言わないとか、、、。
早見先生本当はそうなんですけど、結構言ってるんです。
やっぱり家族だと、そこらへん適当というか、軽い気持ちで言いがちですね。
早見先生そうなんです。言う方も基本的に傷つけようとか全く思ってないです。でも言われた方は意外と気にしていて。だから講演などでは、保護者の方には多少「太ったんちゃう?」みたいなこと子どもに言ってしまったとしても、「でもあんたが一番かわいいね」っていうことは常に言ってくださいってお願いしてます。何か、そこの一言って結構大きいんですよね。
フォロー大事ですね。
早見先生だと思います。仮に、本当に痩せないといけないっていうレベルだったとしても「あんたこんな太ってるから」みたいな感じで言うと・・それがまたストレスになって過食傾向になったり、逆に摂食障害になったりしてしまうので、あんまりそういうこと言わないで、一緒に健康的な食事をしていくって風にした方がいいですね。
そういう意味でも家族全体で健康リテラシーというかそういうのはあった方が絶対いいですよね。
早見先生だと思いますね。
でも本当に早見先生のお話を聞くと社会的文化的要因があるっていうのがもうめちゃくちゃわかりますね。家族であったりメディアであったりとか、そう簡単には変えられないところの問題が不適切なダイエットに影響しちゃってる感じですね。
早見先生あると思います。最近は少しずつ「多様性」みたいなことを言われるようになって、いろんな体型のことをテレビとかでもからかっちゃいけないという風潮が出てきたり、少し良いトレンドが出てきてるなと思ってるんですけど。とはいえまだまだなので、次の世代ぐらいにはそういうのが当たり前になるといいなと個人的には思っています。
編集後記
大阪公立大学の早見先生に、中高生のダイエットについてお話をしていただきました。
中学生くらいになると、友達の中にもダイエットをする子が出てきたりして、どうしてもダイエットのことが気になってしまう時があります。しかし、若いうちのダイエットは「成長のチャンスを逃す」「後になってダイエットを繰り返してしまう」「エスカレートして摂食障害になるケースもある」といったリスクがあるとのことです。気軽にダイエットに踏み出さず、「メディアリテラシー」「自己肯定感」の2つのバリアを育てていくことが大事なんだと思いました。
早見先生、今回は快く取材に応じていただき、ありがとうございました!